■ヴェニスの商人

　１６世紀のヴェニス。バッサーニオ（ジョセフ・ファインズ）は、莫大な遺産を相続したポーシャ（リン・コリンズ）に求婚するため、親友のアントーニオ（ジェレミー・アイアンズ）に借金を頼む。しかし全財産を船で輸送中のアントーニオは、ユダヤ人の金貸し・シャイロック（アル・パチーノ）を紹介するが、シャイロックは、アントーニオの“肉１ポンド”を担保にすることを条件にする・・・。

　シェイクスピアの戯曲を映画化した今作は、１６世紀のヴェニスを舞台にし、迫害されている金貸しのユダヤ人・シャイロックと彼の宿敵アントーニオ、その親友バッサーニオに彼の想い人ポーシャ等、多様な人物が絡み合う人間模様を描いていく。

　シェイクスピアと聞くと構えてしまいそうだが、差別や迫害、恋愛に友愛、憎悪に復讐と登場人物たちの様々な感情は、背景が丁寧に描写されていいることで比較的容易に世界に入り込むことができる。

　メインの登場人物達の中でも、特に印象深いのがシャイロックの人物像である。人肉裁判で再三の慈悲を求められながらも、アントーニオの肉１ポンドに固執するシャイロック。一見常軌を逸している彼の行動は、ゲットーに隔離され蔑視され続けてきたキリスト教徒に対するユダヤ人の怒りそのもののようであり、彼が劇中で露わにする心情は痛切に観ている者の心を揺さぶる。

　執拗に公正な裁きを求めるシャイロックは、皮肉にも法によって本懐を遂げることが叶わない。名優アル・パチーノが、シャイロックの抱える憤懣や悲哀を体現し、悪徳金貸しの印象が強かったシャイロックに深みを与えている。ラスト近く、ベルモントでのくだりは冗長に感じるものの、当時を思わせるヴェニスの街並みの中、悲喜入り混じるシェイクスピアの世界を充分に堪能することができる作品である。


ルーピーＱ的評価・・・★★★★☆四つ星です。


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Comments

こんにちは♪
わぁ、随分お気に召したようですね〜。
「ベニスの商人」と聞けば人肉裁判のみを印象に持っていたのですが、映画を観てこんな背景があったのかと改めて驚きました。
あの当時のユダヤ人の扱いってこういう感じだったのでしょうね。
時代によって原作の解釈は変わるでしょうが、この映画の解釈では思いっきりシャイロックに肩入れしてしまいました。
ユダヤ人蔑視の歴史の古さを思いつつ・・・。

Posted by ミチ at 2006年05月08日 08:29

こんにちは〜！
アル・パチーノありきの作品でした。
どうもその分、この映画ではシャイロック像が他とは違い、悲哀に満ちていた分感情移入もしてしまいました。
当時の再現も人物描写もかなり丁寧になされていましたよね〜。これも単館系作品ではもったいないです。
いつもありがとう〜！また遊びに来ますね♪

Posted by charlotte at 2006年05月08日 12:06

-----■コメント感謝です♪■-----

・ミチ様、今晩は☆

コメント有難うございます！
私も「ヴェニスの商人」＝人肉裁判や悪徳金貸しのシャイロックトイウイメージしか持って居なかったのですが、この映画では今までにないシャイロック像だったので驚きました。
当時のユダヤ人の扱いを冒頭で見せられることで、余計にャイロックに肩入れできたというか。
解釈によって、悲劇にも喜劇にもなり得るシェイクスピア劇の奥深さも感じました。


・charlotteさま、今晩は☆

コメント有難うございます！
アル・パチーノの哀切を感じさせるシャイロックに圧倒されました。
肩入れした分、裁判ノシーンでは爽快感よりも理不尽さを感じてしまい…。
ホント単館上映では勿体無い作品ですよね。
こちらこそ、いつも有難うございます〜♪
またお邪魔致しますね。＾＾

Posted by ルーピーＱ at 2006年05月09日 00:31

アル・パチーノの崩れていく姿と、絶望の表情には惹きこまれていきました。本当に凄い方です。
多少、裁判シーンで「いい加減にすればいいのに」とも思ってしまったのですが、本人にとっては重大な事ですよね。

Posted by yuki at 2006年05月09日 00:50

原作読んでいた昔は、やっぱりポーシャがステキ♪
なんて思っていたのですが、この作品ではシャイロックの悲哀に肩入れしちゃいますね（笑）
こういう普通は気がつかない視点から描いてくれていると
新しい感動が持ててうれしくなります。
ＴＢありがとうございました。

Posted by にゃんこ at 2006年05月10日 00:02

-----■コメント感謝です♪■-----

・yukiさま、コメント有難うございます！

裁判のシーンではあまりの頑な態度に「慈悲」を与えてもいいのでは…とも思いますが、それがまたラスト一人佇むシャイロックを際立たせていたかと覆いました。
アル・パチーノの存在感たるや流石ですね〜！


・にゃんこ様、コメント有難うございます！

裁判でのポーシャは凛々しくて憧れますよね〜。
この作品ではシャイロック視点だったので、従来とは違った印象を持てました。
その分、裁判のシーンでは爽快感がなかったですが全体としては深みが出たのかなぁ〜なんて思いました。＾＾

Posted by ルーピーＱ at 2006年05月10日 21:49

おじゃまします。
「ヴェニスの商人」は不勉強でキチンと読んだことも、演劇を観たことも無いのですが、この映画は現代風な解釈がされている様子ですね。
シャイロックの描写をただの悪人にしなかった分、なんともやりきれないオチですよね。
では、またきます。

Posted by ピロＥＫ at 2006年07月26日 22:25

・ピロＥＫさま、コメント有難うございます！

シャイロック像が単なる悪人ではなく、苦悩や背景が描かれていたのでより悲哀が色濃い作品だったと思います。
当時のユダヤ人はこういう扱いを受けていたのだと思うと、やはり遣る瀬無い気持ちにさせられますね。

Posted by ルーピーＱ at 2006年07月30日 21:03